潤んだような瞳が美しい

玄関口に立つと、先日の和服の若い女性が出てきた。

 

聡志に一礼し、先に立って歩き出す。

 

しかし、今度は離れではなく、別の方向に案内された。

 

廊下の途中に扉があり、女がそこを開けると二階につながる急な階段が現れた。

 

聡志がそこを上ると女もついてきた。

 

二階にもいくつかの座敷がある。

 

女は奥まった座敷に聡志を案内した。

 

そこには茶菓の用意がしてある。

 

女は聡志に続いて座敷に入ると、向かい合って座った。

 

「今日子と申します。」

 

一礼して、女が初めて口を開いた。

 

やっと聞こえるかくらいの細く高い声だ。

 

聡志も頭を下げながら「徳能といいます。」

 

と言った後、「奥様は?」と尋ねた。

 

すると、今日子はややどぎまぎしたような表情を見せ、

 

「本日は、参りません。」

 

と下を向いて言った。

 

「来られない?それはどういうことでしょう、私は奥様に呼ばれて伺ったのですが?」

 

不審そうな聡志に、今日子はすぐには答えようとしない。

 

下を向いて考え込んでいる様子だ。

 

ややあって、今日子は、

 

「茶色の、小瓶をお預かりしております。」

 

と言って聡志の顔を見た。

 

卵形の小さな顔に、潤んだような瞳が美しい。

 

「あ、そうでしたか。

 

では、それをお返し下さるということでのお呼びだったわけですね。」

 

合点がいった顔をする聡志に今日子は、

 

「はい。

 

でもただお返しすることはできません。」

 

ときっぱり言った。

 

「それはどういうことでしょう?」

 

「私を、存分になさりませ。

 

その上でならお返しいたします。」

 

「えっ?」予想外の言葉に、聡志は唖然として今日子を見た。

 

「それは、奥様のお指図でしょうか?」と問う聡志に、今日子は、

 

「はい。」

 

とうなずいた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。」

 

こんなことは初めてだ。

 

聡志は部屋の隅から社長の美詠子に電話した。

 

一部始終を報告すると、

 

「お客様のご指定の日時、ご指定の場所で、ご指定のようにご奉仕するのが、あなたの仕事よ。」

 

と美詠子は平然と言った。

 

「さもなくば、契約不履行になるわ。」

 

「分かりました。」

 

聡志が言うが早いか電話は切れた。

 

「お申し出を、お受けいたします。」

 

聡志が頭を下げると、

 

「では、こちらへ。」

 

今日子が後ろの襖を開けると、次の間には夜具が敷かれてあった。